ポン・ジュノ『スノーピアサー』…一行はなぜ寿司を無事に食べおおせたのか

 「ちょうど一年かけて世界を一周している列車が、毎年ある長大な橋梁を渡る瞬間に新年を迎える事になっている」というだけでもかなりくるものがあるのだが、その瞬間が二者の睨み合いの緊張が頂点に達した瞬間に訪れて、その後線路上の障害物を砕く衝撃の為に二者が平等に伏せ、長大なトンネルに列車が突入する事で二者の均衡状態が一気に崩壊するというのだからとんでもない。それはさておき…


 矩形を組み合わせた立体であるところの直方体。そんな直方体を基とした鉄道車両に住まい、直方体のプロテインを主食とする人々の反乱は、そんな鉄道車両を連ねたところの「スノーピアサー」の編成に円筒系のパイプを突き通す事から始まる。矩形によって保たれている均衡が円の登場によって掻き乱されるという規則にスノーピアサーは縛られていて、それ故に矩形のまな板に乗せられた寿司という直方体を置かれた立場からは不自然なまでに無事に食べおおせた面々は、卵という楕円に出会った瞬間無事ではいられない。カーティス一行が寿司を無事に食べおおせたのは、ひとえにそれが直方体の食物であったからなのだ。
 それでも矩形と円の対立がスノーピアサーの車内に収まっている限り、抗争の「縦の力学」(突き通されるパイプ・車両を一両一両突破していく反抗の進みよう・車両を軸とした睨み合い)は崩れる事はなかった。しかし、その編成の構造を支えている外枠=レールがループ橋という円型と出会った瞬間、その抗争に客車の窓越しでの打ち合いという「横の力学」がもたらされ、矩形の窓には丸い穴が穿たれる。そして前半を支配していた縦の力学とは対照的なこの横の力学が、横/側面=外部へと導き、後半新たに加わる反抗のプランと連関していく事になる。